重力ピエロ

「生きることはやっぱり、つらいことばっかりでさ、それでもその中でどうにか楽しみを見つけて乗り越えていくしかない」

一歩外に出ると、嫌なこと、つらいことが多い。でも、ちょっとだけ我慢して続けていればきっと結果が出る。そう信じて。


「『本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ』春は、誰に言うわけでもなさそうで、噛み締めるように言った。」

深刻に伝えるとより深刻さを増すばかりで、陽気に伝えるのが、やり過ごす方法。


「楽しそうに生きてれば、地球の重力なんてなくなる」

正しくその通り。「ふわりふわりと飛ぶピエロに、重力なんて関係ないんだから」


「母は、『気休め』が好きだった。『その場限りの安心感が人を救うこともある』とたびたび言っていたし、父が仕事で思い屈している時には、豪勢な手料理を用意し、『人を救うのは、言葉じゃなくて、美味しい食べ物なんだよね』と断言した。食べたとたんに消えてしまう食べ物は、彼女にしてみれば何よりも『気休め』だったのだろう。春はよく、『気休めっていうのは大切なんだよ。気休めを馬鹿にするやつに限って、眉間に皺が寄っている』と言うが、それが母の影響だということには気がついていない。」


気休めがうまくいかないと爆発が起こる。

「黒々とした泥のようなものが静かに堆積していて、それが臨界点を超え、時折、ああやって小さな爆発を繰り返している」


けどね、生まれつき足の曲がった鳩もいるのだ。

春が、言う。
「『人間はさ、いつも自分が一番大変だ、と思うんだ』・・・『不幸だとか、病気だとか、仕事が忙しいだとか・・・』」

そして、春の心を作り育てた父が、盲目のサクソフォン奏者のライブ演奏の「軽快さ」を評してこう言う。
「目に見えるものが一番大事だと思っているやつに、こういうのは作れない」

重力ピエロ (新潮文庫)

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